ホームひとりごとタイム10年間待ち望んだ手術(Eさん68歳 女性)

彼女はまぶたのたるみが気になるとのことで来院された。僕はタルミ(皮ふ)を切除し少し小さめの自然な二重にすることをお勧めした。

Eさん「10年以上ずっとやりたいと思っていたので、今回は決心して来ました。」
彼女は既に固く決意されていた。僕も彼女の思いに応えたいと思った。だがカルテに書いてある彼女の既往歴が気になった。
彼女は5年前に脳梗塞を患い、今も右半身に軽い麻痺が残っていた。現在高血圧の薬と、血栓予防(血を固まりにくくする薬。この薬を飲んでいると血が止まりにくくなる)の薬を飲まれているようだった。

僕は手術後のヘマトーマ(血腫:血がたまること)が心配だった。血圧をすぐに測定してみると150/90でやや高めだが、手術そのものが不可能なほどではなかった。普通の人より血が多少止まりにくいことが予想されたが念のため血栓の薬だけは手術の3日前から術後2日間だけやめてもらい、あとはしっかりと術中止血すればなんとかいけるだろうと思っていた。美容外科医になってから今まで、まぶたのタルミとりや切開法の手術で一度もヘマトーマをおこしていないという自信も僕にはあったのかもしれない。

それから2週間後、手術は念入りに止血を行い無事終了した。思ったほど腫れもなく患者様も「仕上がりが楽しみです。」ととても喜ばれていた。
僕はヘマトーマの危険性を十分説明し、「もし何かあったらすぐに連絡してください」とお伝えした。

その後朝からの手術だったが夕方になっても翌日の朝になっても患者様からの連絡はなかった。僕は大丈夫だったみたいだと安心していた。(通常ヘマトーマがおきるのはその日の夜が一番多い)

ところがである。彼女は次の日(手術後2日目の朝)、右眼だけをボクサーのように腫らしクリニックに来られた。右眼は全く開かない状態で、ヘマトーマをおこしているのは明らかだった。初めてのヘマトーマだった。手術翌日の昼ぐらいまでは大丈夫だったみたいだが、その日はいろいろ忙しく出掛ける用事があり、右まぶたの縫ってある所からちょっとずつ出血があったみたいだが、夜(手術翌日の夜)にはボンボンに腫れて眼も開かないくらいになってきたらしい。通常のヘマトーマと時間のずれがあることから、血圧などの変動によっていったん止血されていた部分から再出血があったのだろう。

僕はどうするか処置に悩んだ。今現在、確かに右まぶたはボンボンに腫れているが血腫の圧力もあり出血は止まっていた。通常のヘマトーマは止血が不十分などの理由により起こることが多いので、もう一度中を開け、出血源を確認して止血し血腫を除去しなければならないが、今回の人の場合はその処置をしてもまた後で再出血する可能性がないとは言えなかった。逆に、今中を開けることによって痛みや緊張などで再び血圧が変動し、ちゃんと止血されている左まぶたからも再出血しかねない状況だった。僕は考え抜いた末、何もしないという方法を選んだ。(何もしない方にかけたと言ったほうがいいかもしれない)

あれから4カ月が経った。結局再出血したり悪化することはなかったが、血腫の除去を行わなかったので、完全にそれらが吸収されなかったり、中で強い癒着が残ったりすることもあり、プロの僕から見ると左右全く同じではなかった。わずかに右眼の方が二重の幅が広く眼の開きがちょこっとだけ弱いが、患者様自身があまり気にされていないのでこのまま何もしないでおこうと思う。

今回の件で患者様に大きな後遺症がなかったのは幸いだったが、それはただ運がよかっただけかも知れない。この事を忘れないで、これからも細心の注意をはらい手術に臨まないといけない。これが最初で最後のヘマトーマにしようと思った。

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