ある日曜日の午後、お昼から夕方にかかる頃だっただろうか、僕が太ももの脂肪吸引をしていると、受付にいたナースがオペ室へとやってきて僕に言った。
ナース「先生、男性の方がカウンセリングご希望でいらっしゃってますけど…」
岩本「予約は…?」
ナース「ありません。突然いらっしゃいました…」
岩本「そっかぁ・・・どうしようかなぁ…」
いつもならこのような時は、少し時間をずらしてもらえば対応できるのだが、今は脂肪吸引の真っただ中、どうみてもあと2時間は手が離せない状況だった。
岩本「ちょっと難しいかな。夜ならいいんだけど、まだだいぶ待ってもらわないといけないから、別の日にしてもらったほうがいいかな…。」
僕がそう言うと、ナースが少し困った顔で言った。
ナース「あの…下呂からわざわざ来てくださったみたいで…〇〇さんのお知り合いだそうです…」
岩本「そうか…下呂か…遠いな…。わかった、じゃあ15分後に診る…」
僕はそう言ってその人に待ってもらうことにした。手術はまだあと2時間はかかるが、もうあと少しで後面(うつぶせ)が終わる予定だった。そのあと前面(あおむけ)に移る時に体位変換や消毒をやり直すため10分くらいオペが中断になる。僕はその間をなんとか利用してカウンセリングできればと思った。
15分後ぼくは手袋をとり、洗面所で手のゴムのにおいと汗を洗い流した。そして急いで診察室に向かった。
岩本「すみません。お待たせしてしまって…」
Eさん「こちらこそ突然すみません…実は…」
彼(おじさん)は眼の下のたるみをとても悩まれていた。いつも年齢より老けてみられ、疲れているようにも思われてしまうらしい。最近は仕事でお客さんと会う時もそれを指摘されないかが怖くなってしまっているという。
確かに彼のたるみはかなりひどく、表情にとってマイナスになっているのは明らかだった。それを良くするには手術以外にないと思った。ヒアルロン酸などの注入は適さないし、サーマクールなども効果は薄いだろう・・・。月に一度行うレーザーもあるが、下呂からではそんなに何回も通えるはずはない。だから一発で効果をもたせる方法を選んであげないといけない。それにはやはり手術しかない。休みは5日間ほどとれると言っていたが、しかし……
僕は全てを説明した。
岩本「Eさんは手術をした事を周りの人に気づかれるのを気にしますか?その事が気になったり、ストレスに感じられるようなら手術は難しいです。5日で仕事に復帰する事は可能ですが、まだ腫れもありますし、傷の赤みもだいぶ残ってます。それで仕事に行ったら絶対にバレます。女性なら化粧で何とかごまかす事もできますが、男はそんなの無理ですし…」
Eさん「私もそういうの結構気にする性格です…。」
岩本「そうですよね。男の方がそうゆうの気にしますよね…」

あれから2週間たった日曜日、眼の下のたるみとりの手術を当日希望の女性が来院された。僕はまずカウンセリングをしようとカルテを見た。すると住所欄に下呂市○○町○○、紹介と書かれてあった。
岩本「遠いところから来ていただいてありがとうございます…。」
と僕が言うと
Eさんの奥さま「2週間前、主人が突然来たのに丁寧に対応していただいてありがとうございました。実は私もずっと前から眼の下が気になっていて、そしたら主人がいい先生だからやってもらってこいって言ってくれたんで…。主人も定年して時間ができたらやりたいって言っていました…。」
まだ僕の医師としての技量も何もわからないのに大切な奥さまを任せてくれた事、そしていい先生だと言ってくれた事が、僕にはとても嬉しかった。