ホームひとりごとタイムカルテを破り捨てる(Bさん45歳 OL)

その日はとても忙しい日だった。ゴールデンウィーク前半の休日ということもあって、予約はぎっしり詰まっていた。僕はカウンセリング・オペ・検診を黙々とこなし、昼食もとらないで精一杯手際よくやっていたつもりだったが、どうしても遅れ気味になってしまっていた。そしてその女性のカウンセリングについたのは、予定より一時間近く過ぎてのことだった。
彼女は二重(埋没法)のオペを希望していた。連休明けの仕事に普通に行けるようにとの事だった。僕は彼女の瞼を診察し、そして言った。

岩本「Bさんの希望するラインにするのは可能ですが、埋没法ではちょっと難しそうですね…。少し皮のたるみをとらないと…」
Bさん「切ったりするのは嫌なんです。埋没法でちょこちょこっとやっていただければいいんです。」
岩本「そうですねぇ…皮のタルミがあっても埋没法は可能ですが、Bさんの場合はやめておいたほうがいいです。あまりいい眼になりません。」
Bさん「いい眼じゃなくていいんです。」
岩本「かなり不自然ですよ。周りが変に思っちゃいます」彼女はなかなか引き下がろうとしなかった。このようなやりとりをしている間にどんどん時間が経過していた。その後の人たちもだいぶ長く待たせてしまっていた。僕は時間に迫られ焦っていた。そんな精神状況が、僕の次の口調を強くしてしまった。岩本「僕は不自然な眼は絶対つくりません。他の医者はやるかもしれませんが僕はやりません。」
Bさん「あ、そうですか。じゃあいいです!…(ビリッ!)」彼女は突然立ち上がり、僕が書いていたカルテを強引に取った。そしてそれを僕の目の前で破り捨て、カウンセリング室を出て行ってしまった。

確かに僕は彼女の事を考え、カウンセリングをしていたつもりだった。彼女の眼は皮のタルミが強く埋没法には適していない…それは確かだった…。僕がどんなに手術をうまく行おうと、彼女の希望する眼になるはずはなかった。僕のカウンセリング姿勢は決して間違いではなかったはずだ。そこまで怒らなくても…という思いは正直あった。ただ彼女を早く切り上げて次の患者さんに向かいたいという思いがあったのは確かだった。もう少し別の言い方をしようと思えばできたはずだった。

 我々美容外科医は、一日に何人もの人を診て同じような説明をする。僕にとってはその人は何十人・何百人の中の一人であるが、彼女にとって僕はただ一人の医者であったのかもしれない。そんな簡単で最も大切な事を時々忘れてしまう。
その日の夜、帰宅してからも彼女の事が頭から離れなかった。【できれば、もう一度僕のクリニックに来てほしい】そう願っていたが、彼女は二度と僕のクリニックを訪れることはなかった。
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