ホームひとりごとタイム①K先生 ②あそこから血が・・・(Aさん21歳 OL)

① K先生

 

 大学を卒業してすぐ、僕は名古屋の総合病院に就職した。最初の何年かは大学の医局にいようかとも思ったが、外の厳しい世界に出て早く実戦に出る方が僕には向いていると思った。

 医師としての新しい生活は、それまでの大学時代のゆるーいものとは全く違っていた。1ヶ月、2ヶ月と経つにつれ、肉体的、精神的な疲労がどんどんと蓄積されていった。僕は一日中【しんどい、眠たい、早く帰りたい】とそればかり考えていた。
 その頃僕は、救急救命の一環として外科の研修を受けていた。外科というのはチームで常に動いていて、少し体育会系のノリのようなところもあり、上下関係も厳しかった。だから僕のような一番下っ端は、上の先生たちが病院を出るまでは帰る事ができなかった。その中でもいつも一番最後までなかなか帰ろうとしない先生がいた。K先生だ。ちょうど今の僕と同じ10年目ぐらいで33歳独身一人暮らしだった。(※この話が掲載された2003年は私岩本も33歳でした。)

 正直、僕はその先生を全く尊敬していなかった。むしろかなりムカついていた。その先生のせいでいつもなかなか帰れなかったからだ。【この先生は仕事の後することがないんだ。友達も恋人もいないんだ。かわいそうな人だ…】と哀れみさえ感じていた。

 ある当直の夜、深夜1時をまわった頃であろうか。僕は救急外来を終えて医局に戻るとK先生がいた。

岩本「K先生、まだ帰られてなかったんですか?」

僕がそうたずねると

K先生「いやぁ、今日オペがちょっと遅く終わったから、患者さんがまだ麻酔の後ずっと眠っちゃっててね…。目を覚ました時に無事問題なく終わったことだけ伝えようと思って…。看護師でもいいんだけど、僕が執刀しているから僕が言うのが患者さんが一番安心できると思ってさ…。ちょっと小腹がすいたから腹ごしらえ(笑)…」

 そう言うと、k先生は残りのUFOの焼きそばを一気に口にかきこんで、またICUの方へと戻っていった。その時のK先生の背中に見た医師としての責任感というオーラに、僕の甘ったれた下っ端な心は打ちのめされた。

 後でICUの看護師さんに聞いたのだが、K先生は自分の執刀したオペがあると、たとえどんなに遅くなろうとも病院に残り患者さんが目覚めるまで待っているらしい。そして目覚めた患者さんに「〇〇さんよく頑張りましたね。手術はうまくいきましたからね…」と笑顔で言うのだという…。
【きっとK先生は患者さんから信頼されるいい先生なんだな。】と僕は思った。僕はk先生を心から尊敬し、K先生のことが大好きになった。

 その日からずっと総合病院にいた2年間、僕はいつもK先生と一緒にいた。そして毎日のように叱られ、時にはほめられながらも、医師として大切なものを学ばせてもらった。

 美容外科医になった現在も、K先生とは親交がある。K先生はキレイな奥さんをもらい、子供が産まれた今でもあの頃と変わらない生活を送っている。まちがいなくK先生は、僕が医師として一番影響をうけた先生に違いない。

 

 

② あそこから血が

 彼女は女性器のオペを希望していた。小陰唇という部分の左右大きさが違うのをとても悩んでいた。そのような人はいっぱいいるし、わざわざオペをするほどのことでもないと僕は説明したのだが、彼女は納得していないようだった。もともと彼女は少し心配性で、小さな事を気にするタイプの人間であるらしかった。

 僕は彼女が精神的にその事を気にしないで生きていける事が一番大切だと思い、オペをする事にした。オペは一時間ほどで無事終了し、彼女は満足げで嬉しそうに帰っていった。

 その日の夜、クリニックの診療が終了する少し前、さっきオペをした彼女から連絡が入った。

看護師「先生!さっきのリッぺの患者さんから電話です。至急先生に代わってくださいって…。」

僕はただ事ではないと思いすぐに電話をとった。

岩本「どうされました?」

Aさん「先生、血がいっぱい出てるんです。足の方までたれてきているんです……。」

 彼女は少しパニック状態であるかのようだった。駅の階段を下りている時にそれに気づいたらしい。カウンセリングの時、オペが終わって今日一日ぐらいは多少出血があるかもしれないが、血が中に溜まらないで外にでていれば心配ないと説明してあったのだが…

岩本「Aさんかなり腫れてますか?腫れていると痛いと思うんですけど…」

Aさん「腫れているような気もするし、少し痛いと思えばそんな気もするし、もう分らないんです。これから行っていいですか?診てください。」

 僕は困った。クリニックをもう閉める時間だったし、彼女のいる場所からクリニックのある梅田まではゆうに1時間はかかった。(※当時私は大阪の梅田のクリニックに勤めていました。彼女は堺市というところから来ていましたが梅田までは40分~1時間かかります)

 それに今夜は僕にとって、とても大切な日だったのだ。僕が以前から気になっていた女性との初めての食事の日だった。

 僕はどうするかを迷っていた。なぜなら今までの経験上、もし血腫ができていたとしても、翌日処置すれば大事に至らないのは分っていた。それにこの手術の後、出血があるのはよくあることだった。しかし電話でその事を彼女にいくら説明してみても、彼女の不安を取り除くことはできなかった。

【こんな時、K先生ならどうするかなぁ…そうだよな。Aさんが俺の顔を見て安心してくれることが、一番大事だよな…】

岩本「いいですよ。待っていますので気をつけてお越しくださいね。」

 僕はそう快く彼女に言った。そして彼女を待つことにした。
約一時間後彼女はやってきた。僕はすぐに診察した。

岩本「大丈夫ですよ(笑)。ちょっと出血はありますが、この位は心配ないですからね。」

 僕はそう精一杯の笑顔で言った。すると彼女の不安そうだった表情は一瞬にて安堵の笑顔に変わった。結局その女性との食事には行くことができず残念ではあったが、クリニックを出た時の僕の表情は、とても晴れやかで、いい顔だった。

 

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